8529筆の署名と要望書を気仙沼市長に提出

2024年12月20日「(仮称)宮城県気仙沼風力発電事業計画中止に向けた要望書」を、「気仙沼の母な山 羽田山の中核部 市民の森での風力発電計画の中止を求めます」の署名8529筆と共に、気仙沼市長に提出してきました。要望の理由は4点です。

①災害の頻発化と重大化 ②水源および生態系への悪影響 ③健康被害リスク増大 ④現在および将来の気仙沼に及ぼす影響

そして、地域共生は住民合意に基づくものであることを求めました。

詳細は、スクロールして下記をご覧ください。

NHKでの報道
/https://www3.nhk.or.jp/tohoku-news/20241220/6000029769.html

東北放送での報道

ミヤテレでの報道

三陸新報の報道

河北新報の報道

(仮称)宮城気仙沼風力発電事業の計画中止に向けた要望書

1 要望の趣旨

東急不動産株式会社が、気仙沼市の「市民の森」に計画している(仮称)宮城気仙沼風力発電事業の中止を求める8529筆の署名を受け止め、建設予定地の市有地・市有林を所有する気仙沼市として、計画中止に向けた適切な決断を下されるよう要望いたします。

2 経緯

気仙沼市の西部に広がる羽田山一帯は、豊かな水源地として人々の暮らしを支え、絶滅危惧ⅠB類に指定されているクマタカが生息するなど、三陸沿岸の多様な生態系を象徴する存在です。山麓には奈良時代創建とされる羽田神社が鎮座し、熊谷武雄や尾形紫水といった郷土が誇る文人に愛されるなど、地域の文化を育む精神的な基盤にもなっています。

「市民の森」は、気仙沼の母なる山とも言える羽田山の稜線沿いに整備され、長年、市民に親しまれてきました。東急不動産株式会社の計画は、「市民の森」とほぼ重なる稜線部を中心に、国内最大級の高さ180mの風力発電機を最大で10基建設するというものです。周辺地域の生態系だけでなく、住民の防災面や健康面にも多大な影響を及ぼし、未だ東日本大震災からの復興途上にある気仙沼市の財政や観光に、将来にわたって負の影響を及ぼすことが懸念されます。

再生可能エネルギー重視の掛け声のもと、先人たちが営々と築いてきた自然と人の営みの調和が断ち切られ、回復不能に陥るのではないかとの強い危機感から、「市民の森」での風力発電計画の中止を求める署名を呼びかけたところ、わずか5ヶ月間で、気仙沼市民を中心とする8529人もの方が、共感・賛同してくれました。

「市民の森」は市有地であり、市有林です。私たちに大きな恵みをもたらしてくれるみんなの共有資産です。8529筆の声を受け止めていただきたいと思います。

3 要望の理由

私たちは、再生可能エネルギーとしての風力発電そのものに反対しているわけではありません。ただし、その設置場所については、既存の優れた自然環境及び生活環境を損なうことのないよう、慎重かつ十分に吟味する必要があると考えます。「市民の森」での風力発電計画に対しては、以下の点から疑問の声を上げざるを得ませんでした。

①災害の頻発化と重大化

計画地の北東部は山地災害(崩壊土砂流出)危険地区に含まれており、南側は宮城県内最大規模の砂防指定地に接しています。一帯は花崗岩質で、土砂崩壊の発生しやすい地質であることが指摘されています。防災のための各種指定地における大規模開発工事は、土砂災害の頻発化のみならず、ひとたび災害が起きた場合、重大な被害をもたらすことが懸念されます。

東北地方においても近年、台風が強い勢力を維持したまま上陸する事例が増え、線状降水帯による豪雨災害も頻発しています。また、森林破壊、とりわけ稜線部の改変が、山全体の保水力を損ない、土砂災害のリスクを高めることは、各地の土砂災害の増加を見ても明らかです。

気候変動による災害の激甚化が囁かれる現状に鑑み、市民の命と暮らしがリスクにさらされることを私たちは懸念します。

②水源及び生態系への悪影響

建設予定地の多くは水源涵養や干害防備等の保安林に指定されています。また、廿一川や神山川、金成沢川の源流の山並みであり、わずか1km圏内には廿一水源があり、廿一川は大川沿いの新月水源につながっています。水源の荒廃、水質の汚染、泥水の流出が懸念されます。

計画地周辺はかつて、絶滅危惧ⅠB類であるイヌワシの生息地でした。現在でも稀に観察されることがあり、潜在的な生息地と言えます。同じく絶滅危惧ⅠB類であるクマタカは、現在でも生息が確認されています。一帯は野生動物や渡り鳥の移動経路にあたり、緑の回廊(コリドー)とも呼ばれる貴重な山域です。

このように多様な生物が息づく「市民の森」の豊かな自然を損なうことは、持続可能な社会構築のために生態系を保全しようという世界の流れに反するものと危惧します。

③健康被害のリスク増大

風力発電施設からの騒音や低周波音が、周辺住民の健康に及ぼす被害についてはすでに国内外で問題視されています。今回の計画のような単基で4300kwまたは6100kwもの出力に及ぶ施設の健康影響に関するエビデンスは未だ十分ではありません。また、風車の回転がもたらす巨大な光の明滅=シャドーフリッカーは計画地から半径2kmに達するとされていますが、これについても健康影響に関する十分な知見が得られていません。半径2㎞圏内には多くの住宅等が含まれており、健康被害のリスク増大が懸念されます。

なお、今回の計画地西側に隣接して、4基の風車からなる「気仙沼市民の森風力発電所」がすでに稼働しており、上述の①~③については、累積的影響の観点からも評価されるべきと考えます。

④現在及び将来の気仙沼市に及ぼす影響

市民の森の稜線上に建つ巨大風車群は、日本一のツツジの名所と名高い徳仙丈山をはじめ、岩井崎、亀山など、気仙沼市が誇るビュースポットのどこからも視認され、三陸復興国立公園屈指の景勝地である気仙沼市の自然景観に重大な影響を及ぼします。奈良時代創建とされる羽田神社、400年続くとされる「羽田のお山掛け」といった貴重な文化的景観も、巨大構造物の足元でその価値を損ないます。

気仙沼市にとって唯一無二の財産であり、特筆すべき観光資源でもある優れた自然景観及び文化的景観を喪失すると同時に、上述①~③のように、災害リスクを増大させ、安心・安全な生活環境をも失うリスクを冒すことは、将来世代に取り返しのつかない禍根を残すことになると、私たちは危惧します。

4 まとめ

気仙沼市の環境基本条例(平成18年3月制定)はその前文で、「私たちは、自然の美しさや豊かさからのあふれる恵みに感謝しながら、環境に配慮した生活や事業活動を進め、人と自然が共に生き続けることができる社会を創造し、その環境を守り育てる責任と義務を担い、次の世代に引き継いでいく使命を持っています」と、持続可能な地域社会の創造と自然環境の保全を両輪として進める理念を掲げています。

私たちは、ここに掲げられた理念が具現化されることを願っています。

昨今、全国各地で、地元自治体や住民の反対による風力発電計画の中止が相次いでいます。これは、風力発電事業による地域の環境への影響の重大さが、自治体と住民とに浸透しつつあることの現れであると考えます。私たちの手元に届いた8529筆もの署名も、それを裏付けるものと自負します。

昭和48年の開設以来、地元自治会や、山岳会である彼峰の会、一般の利用者も含め、市民と行政とが協働して50年以上に渡って維持・管理・活用してきた「市民の森」です。協働する市民の側にも、それぞれに想い描く「市民の森」の将来像があります。

菅原市長におかれましては、みんなの共有財産である「市民の森」で計画されている(仮称)宮城気仙沼風力発電事業の中止を求める8529筆の署名を受け止め、建設予定地の市有地・市有林を所有する気仙沼市として、計画中止に向けた適切な決断を下していただきたく、切に要望いたします。

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気仙沼市長宛て要望書 補足参考資料   

森海会の発足から要望書提出に至る経緯と署名活動

Q1 気仙沼の森と海を守る会(以下森海会)の活動と、この運動はどのようにして始まり、広がっていったのですか?

A1 2022年計画地近隣の羽田地区等で、東急不動産による(仮称)宮城気仙沼風力発電事業計画についての住民説明会が開かれ、2023年3月31日には市民会館でも市民説明会が開かれました。今回の計画に懸念を感じた松本まり子が三陸新報に意見投稿した所、市民から関心や反応が寄せられたことをきっかけに、2023年6月に有志で「気仙沼の森と海を守る会」を起ち上げました。(会の目的は後述のQ27を参照)計画についての情報を提供し、市民が考える学習会やシンポジウム、ワークショップなどをこれまでに9回開いてきました。2023年4月以降、既に反対を決議していた羽田自治会、立沢自治会、山岳会彼峰の会、他の市民グループへと参加・賛同が広がる中で、計画の中止を求める署名活動を始めることになりました。

Q2 署名はどれくらい集まったのですか?署名活動をしていて市民の反応はどうでしたか?

A2 「気仙沼の母なる山 羽田山の中核部 市民の森での風力発電計画の中止を求めます」と題したこの署名には、12月10日現在で合計8529筆の賛同(同名のオンライン署名258筆を含む)が寄せられ、全署名のうち市内在住者の割合は80%以上で、本日提出いたしました。今回の計画についての疑問、羽田山と市民の森を守りたいという市民意識の高まりを感じます。

署名活動を通して痛感したのは、大半の市民が今回の風発計画の詳細を知らなかった、あるいは計画があること自体を知らなかったという事実です。「(仮称)宮城気仙沼風力発電事業に係る環境影響評価方法書に対する意見について」(01)において市長は、「自然と調和した整備や工事の進め方について、住民に丁寧に説明し、理解を得ること」を求めておられますが、残念ながら、いまだそのようなコミュニケーション状況に至っていない現状だと感じます。

「再生可能エネルギー」(以下再エネ)の理念

Q3 再エネ推進は必要なのではないですか?

A3 再エネと言うだけで全てが適正・公正な事業とは言えるわけではありません。環境省はホームページで「地球温暖化対策推進法に基づき、地域の合意形成を図りつつ、環境に適正に配慮し、地域に貢献する、地域共生型の再エネ事業を推進する」と、再エネ開発で大事なのは「地域共生」だと強調しています(02)

Q4 脱炭素は、世界の趨勢、国是ですが?

A4 気候変動対策として脱炭素が最重要であることは否定しません。しかし脱炭素の名の下に、森林や自然を破壊してゆくことは、気候変動の解決に貢献するのでしょうか。環境省・気象庁は、気候変動の主原因として温室効果ガス(二酸化炭素)の排出とともに、森林伐採や土地改変を挙げています(03)。森林は二酸化炭素の吸収・固定の貴重なはたらきをしていますが、森林破壊はその働きの喪失だけではなく、固定蓄積された二酸化炭素の大量放出につながるからです。

Q5 風力発電(以下風発)そのものに反対しているのですか?

A5 風発全てを問題視しているのではなく、巨大規模・中央集約型の風発と、立地される環境に問題提起をしています。経産省(資源エネルギー庁)はホームページで「電力の地産地消」、各地域に自律型の発電施設が分散する「自律分散型エネルギー社会の実現」こそが「新しい地域貢献のカタチ」と推奨しています。東日本大震災によって大規模中央集約型電力システムの脆弱性が示された反省をふまえ、地域自律分散型、地産地消型(自給自足型)の未来のエネルギーのあり方を展望しています(04)

Q6 巨大風発による環境問題は、他の地域では起きていますか?

A6 再エネ導入による住民とのトラブルや反対運動は近年急増しており、再エネ開発による環境破壊を抑制するために、規制条例を制定した自治体は184自治体で2016年からの6年間で約7倍に増加(05)、宮城県内でも環境、景観の保全と再エネの調和を図るための条例を制定した自治体は7市11町自治体にのぼります(06)。2024年の東北地方で限っても、9月に山形県米沢市栗小山で10基の、10月に宮城県大崎市と栗原市の六角牧場に17基の計画が、市民団体や自治体の反対表明を受けて、事業が中止されています。

Q7 再エネ導入や開発において、大事な条件は何だと思いますか?

A7 私たちは、風力発電を含む再エネそのものに反対しているわけではありません。要望書に挙げた気仙沼環境基本条例においても、「環境に配慮した生活や事業計画を進め、人と自然が共に生き続けることができる社会を創造し、その環境を守り育てる責任と義務を担い」(07)と謳われています。

「再エネ・脱炭素」の目標の下に、今現実に各地の地方で何が起きているかを見る視点が必要だと考えます。再エネ事業だからこそ、以上に掲げた地域共生や生態系保全との両立、自律分散・地産地消型などの理念が大切にされている事業なのかといったことを、事業者任せではなく、市民や自治体がしっかりチェックし判断し選択してゆくことが持続可能な地域社会の創造につながると考えます。

要望の理由1 懸念と意見 防災面

Q8 今回の計画への疑問点や懸念点は、何ですか?

A8 大きく分けると、防災、生態系、生活と健康、景観と観光などへの影響と懸念です。今回の計画は、単機4300kwまたは6100kwのいずれかの巨大風車を最大10基、山の稜線部、市民の森に建てる計画です。40階建てビルの高さに相当し、東北地方で最も高い建造物仙台トラストタワーと同じ180mの高さです。風車の発電容量4300kwは国内最大規模、既設で6100kw規模の風車の話は聞いたことがありません。(進行中の計画はいくつかあります)近年単機でより大容量の発電ができるよう、風車の規模はますます巨大化しています。

Q9 今回の計画の風発が建った場合、防災上の懸念とは?

A9 計画地の稜線の南側斜面(羽田・水梨側)は県内でも最大級の砂防指定地、そして、稜線から北側斜面(渡戸・金成沢側)は山地災害危険地区に指定されています。さらに、熊山から渡戸山を結ぶ稜線を保護するように保安林指定(干害防備兼保健保安林・水源かん養保安林等)が複数かけられている山です。これは山と人の暮らしを守るために防災指定してきた先人たちの知恵でもあります。

また計画地は、花崗岩質であり、工事改変で風化が進むと土砂災害を起こしやすい地質だと、この計画について専門家の委員で構成される環境影響評価技術審査会(以下審査会)でも注意を促していました(08)

Q10 どのような災害が起きるリスクが高まりますか?また、気仙沼では既設4基が稼働していますが?

A10  保安林とは、水源涵養、土砂流出の防備、生活環境の保全など、公共目的を達成するため森林法に基づいて指定された森林です。近年の各地での台風や線状降水帯豪雨による土砂災害の増加を考えれば、防災指定地に大規模開発工事を行うことの影響を軽くみてはならず、これまでのデータや想定では十分とは言えないと審査会委員が指摘しています(09)。メガソーラー建設地での、豪雨による土砂災害の事例は多数あります。

すでに市内の事業者による既設風力発電が4基稼働しています。これら4基は、防災指定されている山々の稜線部を、始めから計画地には含めないことで、地域の防災に関して特別に配慮をして設置されたものと地元事業者から聞いています。

要望の理由2 懸念と意見 生態系の面

Q11 生態系や水源には、どんな影響がありますか?

A11 東北地方の建造物として最も高い180mの巨大風車を固定するには、森林皆伐にとどまらず、地下深く岩盤を掘削する大工事となり、大量のコンクリートを投入し打設します。計画地面積も71.5ha(東京ドーム15個分)の広さにまたがります。自然と生態系の大改変の影響は、推して知るべしだと思います。

風車設置予定範囲の1km圏内の近くには廿一水源があり(10)、水源の荒れや水質汚染、泥水流出を懸念します。ます。今後水インフラを管理整備する重要性が増す中、水源を涵養し守ることはきわめて重要であり、水源を荒らす恐れのある開発は避けるべきと思います。山の改変は水源に影響し、川下の沿岸部にも影響します。

Q12 水源を涵養し守ることは、なぜ重要なのですか?

A12 世界の国々の中でも、日本は国土の7割が森林で覆われていることにより、水循環の恩恵を長く享受してきた国です。「いのちの水」といわれるように、水は人類だけでなく、全ての生き物にとっても重要な資源であり、生態系の保全にきわめて大切です。表層水と並んで地下水は公共性の高い貴重な資産であり、下流域に恩恵をもたらします。市民の健康と安心して暮らせる生活環境を確保してくれる、水源と水資源の社会的価値を認識すべきと考えます。

水循環基本法には「水が国民共有の貴重な財産であり、公共性の高いものであることに鑑み、水については、その適正な利用が行われるとともに、すべての国民がその恵沢を将来にわたって享受できることが確保されなければならない。」さらに「水は、水循環に及ぼす影響が回避されまたは最小となり、健全な水循環が維持されるように配慮されなければならない。」(11)とあります。

現在の再エネの推進で、水源涵養の森林が大規模に伐採・開発されていることの危険性を軽く見てはならないと思います。

Q13 絶滅危惧種動物、イヌワシやクマタカへの影響はどうですか?

A13 ご存知のように、イヌワシやクマタカ等の猛禽類や鳥類は、その地域の自然がどれくらい健全であるかを示す重要な指標です。今回の計画地周辺はかつて絶滅危惧ⅠB類であるイヌワシの貴重な繁殖地、潜在的な生息地であり、同じくⅠB類であるクマタカは現在でも生息が確認されています(12)

Q14 コリドーとは何ですか?

A14 コリドー(緑の回廊)とは野生動物や渡り鳥の重要な移動経路のことで、計画地とその周辺はコリドーでもあります(13)。ここに巨大な風車群が建ちならぶことで鳥の渡りやコリドーを阻害し途絶する可能性があると、審査会の委員が警告しています(14)

Q15 世界で生物多様性保全の取り組みが進んでいます、今回の風発計画との関係は?  

A15 生物多様性保全の面では、2022年12月に生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」をふまえ、30by30(サーティバイサーティ)目標がグローバルターゲットに盛り込まれました。日本政府も2023年3月に「生物多様性国家戦略2023ー2030」を閣議決定しました。2030年までに陸と海の30%以上を保全する30by30目標が、ネイチャーポジティブ実現の主要目標になっています(15)。この30by30目標と、今回の風発計画が、おそらく齟齬(そご)を起こすだろうと審査会委員が注意を促していました(16)

Q16 巨大風発による健康被害とは、どのようなものですか?

要望の理由3 懸念と意見 健康・生活面

A16 全国・世界でも風発による騒音・低周波音による健康被害の実例が報告されており、風発低周波と睡眠障害の有意関係について国費による疫学調査の結果もあります(17)

騒音研究の専門家である北海道大学工学研究院の田鎖順太助教は、風車からの低周波音で睡眠障害や頭痛、めまいなどの健康被害が国内外で報告されていると説明。環境省の風車騒音に関する指針の「直接的に健康影響を生じる可能性は低い」との見解は、睡眠障害が含まれておらず「誤り」と指摘した上で、「科学的に絶対的に安全」との根拠はなく、「風車騒音などの負の側面を議論すべきだ」と訴えました(18)。 

Q17 シャドーフリッカーとは何ですか? 

A17 今回の計画の風車ブレードの直径は130~158mで、この規模の羽が回転すると半径2kmの範囲にシャドーフリッカーという光の明滅現象が発生すると、事業者が方法書で明らかにしています(19)。半径2kmの範囲にはたくさんの住宅があり、健康被害や生活妨害が懸念されます。

Q18 計画地の近くには福祉施設がありますが?

A18 今回の風力発電計画については、地域の福祉施設などからも大きな懸念の声が上がっており、計画中止を求める署名にも賛同をいただいています。その中には、計画地からわずか1.3kmに、認知症対応型グループホーム「みずなしの丘」があります。また、2.3Kmに重症心身障害児(重心児)を対象とした発達支援や生活介護などの多機能型事業所「いっぽ」があります。ここには特別なケアを必要とする子供たちも通所しており、彼らは特に環境の変化に繊細に反応すると伺っています。さらに3.0Kmには介護事業所の「デイ倶楽部いぶし銀」もあります。このように、気仙沼市福祉事業の重要な役割を担っている施設が近隣に存在します。

これらの施設だけでなく、市内の複数の施設職員からも、今回の風発計画について強い懸念、事業の継続ができなくなるのでは、という不安の声をお聞きしています。

Q19 この計画の規模の風車が8~10基建つと、景観や観光にどんな影響が出ますか?

A19 市民の森の稜線上に巨大風車群が建てば、その巨大さゆえに市内至る所から視認されると事業者も方法書で明らかにしています(20)。徳仙丈、岩井埼、亀山などの観光名所やビュースポットなどからも目に入り、自然景観を大きく変質させてしまいます。景観学では、視野角1度以上の建造物は目立ち景観的に気になりやすいと言われ、今回の計画地から10.5kmの範囲は視野角1度以上で視認されます(同20)

要望の理由4 懸念と意見 現在及び将来の気仙沼市に及ぼす影響

  今回は気仙沼の森と海を守る会が自作したイメージフォトを公開して。風車の設置位置は、方法書の記載内容や地形等から私たちが独自にシミュレートしたものです。風車の高さはできるだけ正確さを期しましたが、素人仕事のため、必ずしも正確ではない可能性があります。

本来は事業者から示されるものです。景観への影響を理解し議論する上で重要な資料なので、事業者側から正確なイメージが早期に示されることを強く望みます。

Q20 この事業計画が、気仙沼市にもたらすメリット(得るもの)はないのですか?

A20 事業者の企業収益となり、それを求めるのは企業として当然のことです。また国策の「脱炭素・再生可能エネルギー」推進には、いくらかは貢献するでしょう。

気仙沼市にとっては、借地料や固定資産税、工事期間中の地元関連企業への業務発注は増えるでしょう。様々な基金・協力金・寄付金として経済的恩恵があるのかもしれませんが、これらは言わばお金=経済的利益です。(発電された電力は売電されますから、気仙沼市独自の電力供給体制の整備にはならず、災害時の停電対策にはなりません)

Q21 この事業計画が、気仙沼市にもたらすデメリット(失うもの)は?

A21 市民の森を含めた地域の風土は、暮らしや生業を支えるだけでなく、気仙沼の貴重な自然資産・文化資産・景観であり、気仙沼に生きる人たちの精神を培う土壌でもあります。私たちが失うものは、豊かな自然、自然と共にある暮らしや産業、自然と人のつながり、気仙沼に生きる人々の精神性と価値観の土台(お金に代えられないもの)だと考えます。

今回の風発計画は、気仙沼の貴重な資産である優れた景観と生物多様性を損なうに足るほどの価値あるものなのでしょうか?短期間の利益を得ることで、「未来永劫」(審査会の平野会長の言葉A23)失われるかもしれない自然資産・文化資産の価値を、市民一人一人が自分事として考える大事な機会だと思います。

Q22 羽田山と気仙沼「市民の森」の価値とは何でしょうか?

A22 今回の計画地は、気仙沼市街の西に広がる台地状の山並みで「羽田山」と称され、その稜線部は「市民の森」として長年住民と近隣自治会によって大切に整備され、市民に親しまれてきました。古くは入会山として麓の村々の暮らしと農業・林業を支え、気仙沼の豊かな川と海の源流でもあります。先人が営々と守り育んできた羽田山の自然と文化、その流れの上に昭和48年に開設されて以来、親しまれてきた「市民の森」です。

今回の計画地は、人と自然との触れ合いの場・市民の憩いの場=「市民の森」として整備されてきた場所です。長年、地元自治会、彼峰の会、一般の利用者も含め、市民と行政とが協働して、50年以上に渡って大切に維持・管理・活用してきた市民の森です。

Q23 今回の計画の風発が建てば「市民の森の価値を未来永劫毀損する」と、専門家が指摘したそうですが?

A23 審査会(以下審査会)において、審査会会長で景観学の専門家でもある平野委員からは以下の強い指摘がありました。

「「市民の森」に関しては、人と自然との触れ合いの活動の場ではなくなるということを前提に、御社は事業を進めていくという決意表明に見えます。」

「気仙沼市民が、「市民の森」を利活用することの価値を毀損してでも、ここで再エネの発電をすることの方が価値があると判断なさっているってことですよね。」(21)

「人と自然の触れ合いの活動の場としての価値が未来永劫、毀損されても別の価値を生むから大丈夫だという認識ですか。その別の価値というのは、この再生可能エネルギーの導入というところですか。」

「これはアセスメントするまでもなく、計画の位置に建ててしまったら、もう人と自然との触れ合いの活動の場としては成立しないですよね。それは分かっておられますか。音環境からしても、視環境からしてもあり得ないと思います。まず、それを理解しておられるかをお聞きしたい。」(22)

これは、事業者のみならず、市民への警告として、重く受け取るべき見解です。

共有資産としての市民の森、市民自治と合意、世代間倫理、運動の目指すもの

Q24 計画地は市有林であり、利活用については市民の合意が大事と強調していますが。

A24 計画地は市有地・市有林であり、自然資産・市民の社会的共有資産でもあります。市民の共有財としての市民の森の利活用に関しては、市民による話し合いと合意が何よりも大切です。一企業に委ねたり、市民の声を聞き流して行政だけの独断で決められたりするものではありません。

先人たちが山や森や自然と対話・共生しながら暮らしと生業をいとなみ、その風土に根差した歴史と文化を形成してきました。今回の風発計画に反対決議を出している近隣の羽田自治会、立沢自治会、彼峰の会は、そのような山と森の管理と整備をしながら、下流域・沿岸部の人たちの生活と生業を守ってきた人々です。彼らの声を尊重することなしに、市民の合意や持続可能な事業はあり得ないと思います。

Q25 巨大風発に反対ということであれば、市民の森の利活用について、代替案・オルタナティブプランはないのですか?

A25 地域共生、生態系の保護と持続可能な地域社会の創造を両立する方法は、他にアイデアが出てくると思います。例えば、気仙沼地域エネルギー開発株式会社のような地域循環型の持続可能な森林管理の拡充、トレイルランニングやハイキングなどアウトドアフィールドの整備など・・・・今ある自然資産の価値を損なわず、地域の資産として豊かな自然を大切に利活用することによって交流人口を増やし、地域の活性化に貢献できるオルタナティブなプランもあるのではないでしょうか。

様々な可能性や未来像を探っていくためにも、地域の貴重な自然資産をネイチャーポジティブ(自然再興)させ、性急な自然開発を市民が声を上げて止めてゆくことが目の前の課題だと思います。

Q26 気仙沼の森と海を守る会のホームページではトップ(23)に、「自然は祖先から譲り受けたものではなく、子孫から借りているのです」という言葉を挙げていますが?

A26 環境科学でも注目されてきた「世代間倫理」という思想では、「自分の世代だけの利益だけでなく、未来の人々に対しても責任を持たなければならず、過去の人たちが積み上げてきたものを、土台から壊して野放図に変えてはいけない」(24)とされ、「自然は将来世代から借りているものである」という認識が必要だと言われます。

私たち市民は将来の孫子の世代まで受け渡してゆくべき、気仙沼の豊かな資産(自然・産業・文化資産)を保全する責務があると思います。

Q27 会の名前は「気仙沼の森と海を守る会」ですが、この運動の目指しているものは何ですか?

A27 私たちは今回の計画の懸念点・問題点を考える中で、森・山の自然と私たちの暮らしの密接なつながりに改めて気づくことができました。気仙沼発祥の「森は海の恋人」という思想は、自然はひとつながりであるということを謳っています。にもかかわらず、私たちの多くは、先人たちが大切にしてきた自然の恩恵や人と自然との共生などの価値を軽んじてきたのかもしれません。そうした人間の意識が、現在の気候危機を招いたのではないでしょうか。

      気仙沼環境基本条例は、前文で「私たちは、自然の美しさや豊かさからのあふれる恵みに感謝しながら、環境に配慮した生活や事業活動を進め、人と自然が共に生き続けることができる社会を創造し、その環境を守り育てる責任と義務を担い、次の世代に引き継いでいく使命を持っています」(25)と、持続可能な地域社会の創造と自然環境の保全を両輪として進める理念を掲げています。

この条例の理念を継承し、気仙沼の森と海を守る会は「生態系の保全、人間と自然界との繋がりの回復、コモンズ(社会的共有財)の拡大、公正公平な社会のあり方、数世代先を見越した地域環境と生活について市民が共に考え、必要な活動を行ってゆく」ことを目指しています(26)(気仙沼の森と海を守る会会則)。

出典一覧

(01)(仮称)宮城気仙沼風力発電事業に係る環境影響評価方法書に対する意見について 令和5年7月18日https://www.pref.miyagi.jp/documents/43509/sityoiken_miyagikesennuma_houhousyo

(02)環境省ホームページ 地域共生型再エネと環境省の取組

https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/re_energy.html

(03)文部科学省・気象庁・環境省「日本の気候変動とその影響(2012年版)」

https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/solar2019after

(04)経済産業省・資源エネルギー庁ホームページ 知ってる?「電力の地産地消」

https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/solar2019after

(05)2022年4月経産省第1回再生可能エネルギー発電設備の適正な導入及び管理の

あり方に関する検討会資料より

(06)2024年11月6日 三陸新報 論説 「再エネと環境保全 気仙沼市も条例制定を」

(07)気仙沼市環境基本条例 前文

(08)令和5年度第2回宮城県環境影響評価技術審査会 会議録 7月31日 P.9

(09)令和5年度第2回宮城県環境影響評価技術審査会 会議録 7月31日 P.13

(10)(仮称)宮城気仙沼風力発電事業 環境影響評価方法書 P.150 

(11)水循環基本法 第1章 第3条https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/mizu_junkan/about/pdf/03_kihonho_all.pdf

(12)南三陸ワシタカ研究会からの情報提供による

(13)(仮称)宮城気仙沼風力発電事業 環境影響評価方法書 P.130

(14)令和5年度第1回宮城県環境影響評価技術審査会 会議録 4月10日 P.11

(15)環境省30by30  https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/

(16)令和5年度第1回宮城県環境影響評価技術審査会 会議録 4月10日 P.11

(17)風力発電等による低周波音・騒音の長期健康影響に関する疫学研究平成25~27年

https://www.env.go.jp/policy/kenkyu/special/houkoku/data_h27/pdf/5-1307.pdf

(18)北海道新聞2024年9月11日 北海道余市町・赤井川町の学習会の記事

(19)(仮称)宮城気仙沼風力発電事業 環境影響評価方法書 P.349

(20)(仮称)宮城気仙沼風力発電事業 環境影響評価方法書 P.292

(21)令和5年度第1回宮城県環境影響評価技術審査会 会議録 4月10日 P.4、5

(22)令和5年度第2回宮城県環境影響評価技術審査会 会議録 7月31日 P.4、5

(23)気仙沼の森と海を守る会ホームページ https://www.kesennuma-mori.com/

(24)朝日新聞2024年10月31日 社会に映す「いま」いない人の意思 江藤祥平

一橋大学 憲法学教授 談

(25)気仙沼市環境基本条例 前文

(26)気仙沼の森と海を守る会 会則 https://www.kesennuma-mori.com/aboutus/